家を出てものの数分、久々に露出狂に出会った。
彼はこちらをじっと見据え、少し思い悩んだのち、思い切って上着を開いたようだった。

もしかしたら彼にとって此処は初の露出の舞台なのかもしれない。
人間何事にも初めてというものがあるが、今まさに私は彼の初舞台へと舞い降りてしまったようだ。

それにしても、露出狂に遭遇するのは何年ぶりだろうか。
ここら辺にはもう生息していないと思っていた野生動物を久々に見かけた時のような懐かしさを覚えた。

お洒落なマスクに下半身が丸見えな状態がひどく面白かったので
「折角なので写真撮っていいですか?」
と尋ねたが返事がなかった。しかしながら、その解放された姿のまま止まっているところを見ると、快諾してくれたのだろう。
そう思いスマホを取り出したところ、突如露出狂は何かが弾けた様に後方へ走り出した。

本能だろうか……気がつけば私は追いかけていた。

「あの、一枚だけでいいんで」
久々の露出狂に出会し、自分でも気がつかないうちに気分が高揚していたのかもしれない。
走りながら自然と露出狂に妥協案を申し出ていた。
こんな話をしてもきっと誰も信じてくれないだろう。
「また、ふざけた話してる」
そう言う友人の顔が頭に浮かぶ。
十中八九嘘だと思われるだろう。

だから一枚、一枚でいいから写真を撮っておきたかった。

真実を収めたい。

新聞記者のカメラマンもこんな気持ちなのかもしれない。
見せたい露出狂と、写真を撮りたい私。
お互いの要求は一致しているはずなのに、何故こんなにも彼は必死に逃げるのだろうか。


途中、露出狂が転んだ。
前全開で見事にスライディングを決める形となってしまった。

流石に心配になり更に速度を上げ近づいたが、露出狂は悲鳴にも似た声で謝罪を口にしながら再び起き上がり走り出した。

その声はまだ幼さが残っているような、そして寒さのせいなのか心なしか震えているようだった。

こんなにも拒絶するなんて…。
未だかつてこんなに何者かに拒絶された事があっただろうか。

これ以上の深追いは危険だ。

私は手に握っていたスマホをそっとポケットに戻した。
その全力の拒絶に少し心を痛めつつ、遠ざかる露出狂の背中を見送った。

写真が撮れなかった無念だけをそこに残して、私は再び帰路へ就いた。