公園を借り、子供達を中心に小さめの運動会を開く事となった。私はそこのスタッフ兼選手として借り物競走に参加した。
借り物競争は予め借りる物を隠し、それを見つけてゴールするというシステムであった。
私の持ってくる物のお題の紙を開くと
「馬」
と、書いてあった。
お題が兎の者が兎のぬいぐるみを見つけたのを横目に、私も探したが捜索は難航した。
何とか見つけ出しゴールに向かっている道中、学生スタッフが見知らぬオヤジに、子供の声が煩いと絡まれていた。私はオヤジに刺激を与えぬよう笑顔を作り駆け寄った。
しかし、オヤジの目には、あり合わせのケンタウロスの余りの部分で作りましたという様な、顔が馬、体が人間という雑な生き物が突進してくる映像がお届けされた。
私の渾身の笑顔は馬によって遮断された。
馬のぬいぐるみではなく、馬マスクがあつらえられていた事によるアクシデントである。
ケンタウロスの余りにしては少々分断する比率がおかしい故、どこかで私の顔が付いた馬が彷徨い歩いていると思うと非常に不気味である。
私は「どうなさいましたか」と声をかけたが、オヤジからすれば「お前こそどうなさった」と思ったことだろう。
先程まであんなに元気だったオヤジが、今や言葉を失っている。
私は借り物競争によってこの様な佇まいになっている事を示す為、オヤジにお題の紙を渡した。
しかし、オヤジからすればいきなり馬人間に四つ折りの紙を渡され、開くと「馬」と書かれているという謎の現象が勃発した。
身体の人間の部分には目を瞑れという強い意志を感じた事だろう。
オヤジは紙を持ち硬直していた。
スタッフも共に紙を覗いていたが、オヤジが開いた瞬間にもう立つことを諦め、地面で必死に酸素を吸おうと苦戦していた。
もはや呼吸すら危ういスタッフから話を聞く事は不可能であり、申し訳ないがもう一度この馬に事情を話して頂けないだろうかとオヤジの目を真っ直ぐに見つめ申し出た。
しかし、馬マスクは鼻の穴を視界とするが鼻がひしゃげてしまった。
私は鼻の穴を人差し指と親指で広げて視界を保ったが、両手でOKサインを作り鼻の穴を広げているという見た目になった。
完全に煽っているようなスタイルになってしまった。
馬の下は深刻な表情で話を聞いているというのに、真摯な態度が何一つ伝わっていないような気がしてならない。
スタッフはようやく気を取り直し顔を上げたが、そんな馬の姿を見ると再び呼吸が危機的状況に陥り地面に沈んでいった。
オヤジの「子供の声が煩い」という思いの丈のリプレイ再生が始まった。
しかし、途中で言葉を止めると、集中できないからマスクをとってくれと逆に申し出てきた。
確かにと思い取ろうとしたが、マスクは小さめで汗で張り付きなかなか取れず、しばらくオヤジとスタッフの視界に顔を激しく揺らし悶える逆ケンタウロスの姿がお届けされた。
スタッフは顔を上げる度に馬の様子がおかしくなっていくので、とうとう半泣きになった
見かねたオヤジが手伝ってくれたが、側から見れば半泣きの学生スタッフを助けるべくオヤジが決死の覚悟で化け物を退治しているように見えた事だろう。
もはや苦情オヤジとは思えぬ英雄の所業であった。
ようやく取れたが、汗で髪が顔中に張り付いた必死な顔がオヤジ達にご公開された。
馬を剥いだら更なる妖怪が出てきてしまった。
オヤジは私を数秒睨むように無言で見つめた後、何か迫るものがあったのか耐えられなくなり吹き出した。
運動会は滞りなく行われた。
【追記】
この運動会は代表が事前に許可を取り、手紙や張り紙なとで告知をしてあった為、近隣の住民はむしろ協力的で応援に来てくれたり手伝ってくれる人の方が多かった。
顔だけ人間の馬や、その逆の馬人間が鳩のノリで公園を彷徨く事に比べれば、子供達が公園で集まっている事の方が遥かに精神衛生上良いだろう。
どうか、子供達がのびのびと遊べる場が増える事を願う。
因みに、この馬マスクはスタッフの一人が個人的にハロウィンの際にネットで購入した物であった。
彼は、アニマルマスクを買う際は、出来れば通販サイトなどでは買わず実物を見て買った方が良いと語る。
どうしても急を要して通販サイトで購入する場合は
「必ずレビューを見てから買うこと」
が大事だそうだ。
この馬マスクは大人用にはサイズが小さく、更に購入当初は異臭により被れたものではなかったらしい。
今後アニマルマスクが必要な方は、是非彼の意見を参考にして頂けたらと思う。

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