その日、友人カネヤンは落ち込んでいた。
片思いしている女子からチョコが貰えず、それどころか誰からも得る事が出来なかった。
私はカネヤンと帰宅のタイミングが重なり帰路を共にした。
チョコが無いカネヤンが不憫になり、余っていた物があったのでカネヤンに友情の印として渡した。
すると、中学生らしき二人組が行手を阻む様に現れ、小学生の癖に生意気だから今受け取った物を出せと要求してきた。
カネヤンはチョコが貰えなかったうえに、今や身包みまで剥がされそうになっている。
渡してもいいよと言うと、カネヤンは先程私があげた物をポケットから出した。
しかし、それはチョコではなく豆であった。
節分の時に学校で配られたものである。
中学生はお前は持っていないのかと豆の発生源である私にまで訊いてきたので探したが、更なる豆が6袋出てきただけであった。
チョコを探せば探すほどに何故か豆が増えていく事態となった。
私は、ふざけていると思われてはいけないと思い説明を加えた。
「カネヤンは、好きな女子からチョコを貰えなかったんです」
カネヤンは強張った。
「それどこか誰からも貰えなかったんです」
説明をすればする程に私の言葉が豆鉄砲となりカネヤンは被弾した。
中学生は
「でも、豆ってお前……」
と、豆に不満を抱いているようであった。
しかも、豆はランドセルの中で教科書や数々の衝撃に揉まれ粉末状になっていたので
「粉じゃん……」
と、再び中学生が呟いた。
もう片方の中学生は、よほど粉と化した豆が衝撃的だったのかツボに入り苦しんでいる。
何故コイツは今日という日に粉末と化した豆しか持っていないのかと思った事だろう。
妙な二人に絡んでしまったという後悔の色がその表情から伺えた。
そして、豆すらもまともな物が貰えぬという事実が再びカネヤンに猛威を奮った。
「どうせ俺には粉になった豆がお似合いさ」
カネヤンが自暴自棄になっている。
言葉の端々から凄まじい悲壮感を感じる。
これ以上彼にダメージを与えては危険だ。
カネヤンのHPは0に等しい。
カネヤンの闇に触れた中学生は、豆を返還し
「まあ、気にするなよ」
「そうそう、これからだよ」
と、カネヤンを励まし始めた。
「中学生になれば誰かからは貰えるようになりますか?」
と、カネヤンは若干涙目で訊いた。
今度はカネヤンの言葉が中学生を貫いた。
貰えていたらこんな山賊のような真似はしていない事であろう。
豆の在庫はまだあるので、中学生達にも渡そうとしたが「粉はいらねえよ」と拒否された。
もはや彼らの中で私の豆は粉として認識されている。
友人達が食べなかった豆達は行き場を無くし、再び私のランドセルの中で路頭に迷う事となった。
カネヤンは突如豆の袋を開け、口に流し込んだ。
カネヤンがヤケになっている。
女子が想い敗れチョコをやけ食いするのならば、彼は豆である。
咀嚼したのち
「同情なんていらねえんだ」
と、吐き捨て走り去った。
私も中学生も、カネヤンの背中を黙って見送る事しかできなかった。
せめて豆が粉末状でなければ、結果は違ったのだろうか。
【追記】
中学生は
「アイツ、よく咽せねえな……」
と、半ば感心していた。
そして
「豆はねえよな」
「粉だしな」
「だから何で差し出す。いらねって」
と、口々に豆をディスり、私が再び差し出した豆は受け取られる事はなかった。
しかし、カネヤンは帰宅後にチョコを貰った。
その子は今年から帰宅後にチョコを配るスタイルにしたらしく、私の家にも渡しに来てくれた。
私はカネヤンが報われた事を知りほっとした。
そして、部屋に戻り在庫の豆を胃に注ぎ込む作業に戻った。
まだ5袋ある。

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