その日、私は久々の積雪に気分が高揚し、降りしきる雪を眺めながら自室で自作の腰蓑を頭に被り身体を揺さぶっていた。

すると、屋根からの雪の落下に伴い大きな音がすると共に家が少々揺れた。
これも雪の醍醐味であると思っていると、猫達がわざわざ一階から足を運び、襖の隙間から訝しげにこちらを覗いた後に去っていった。

更にまた落雪の音が響くと、振り向けば今度は母が現れ、先程の猫達同様に訝しげな目を私に注いでいた。
何事かと声をかけると
「凄い音がしたから、部屋で四股踏んでるのかと思って……」
と、落雪の音を私が四股を踏む音だと思い込み、確認しに来たようであった。

相撲神事にそこまで情熱を注いだ覚えはない。
自室で家が轟く程の四股を踏むなどと、大地の悪霊を踏み鎮める事に余念がなさすぎるのではないだろうか。
しかし、現在私は頭から腰蓑を被っている為、悪霊に近い風貌であり、どちらかといえば踏み鎮められる側である。

間違っても大人しい風貌ではなかった為、四股ではなくとも何らかの騒音の原因であると疑われかねぬ事態であった。
事実母の目は、夜道で小豆をぶち撒け、一心に豆を拾う私に出会した時の警官の目に似ていた。

明らかに疑われているので、私は先程までの「積雪の舞」を母に見せつけ、腰蓑の素材のスズランテープが揺れる音はすれど、あのような爆音が鳴らぬ事を示し、落雪が原因であると誤解を解いた。
しかし、母は終始「何故こんな光景を見せられているのだろう」という顔をしていた。

ややあって、腰蓑が猫に襲われたので大人しく床に着く事にした。
再び落雪の音が響くと、隣で寝ていた猫が頭だけを起こし
「うにゃんにゃんなん……」
と目も開けずに文句を言い再び眠りについた。
母の誤解は解けたが、猫の誤解は解けていなかったようであった。

自室で四股を踏む迷惑力士として認識されてあるのは遺憾である。
因みに今まで一度も室内で四股を踏んだ事はない。
何故疑われているのか理解に苦しむ夜となった。


【参考図 積雪の舞】
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【うにゃんにゃんなん…】

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