太陽光で回転するプロペラが付いた帽子を被り、試しに日光を浴びようと玄関扉を開けると、丁度何らかの思想団体の勧誘男性がインターホンを押そうとしている瞬間であった。

まだ押してもいないうえに中から妙な者が出てきた為、明らかにもう帰りたそうな表情が一瞬垣間見えた。
しかし、私のような者にこそ救いが必要であると判断してたのか、相手は気を持ち直し語り始めた。
頭のプロペラを回す事に忙しいなどと断るのも変人と思われかねぬので、大人しく話を聞く事にした。

「私達は穏やかな世界を望んでいます」
と言うので、私も同じ意である事を告げたが、相手の話がまだ続いていた為に

「ですが、平和を打ち壊す良からぬ者達は、世界が波乱に満ちる事を望んでます」

「私もそう望んでます」 

と、会話に一小節 ズレが生じ、邪悪な発言になってしまった。

安いアパートから平和を打ち壊す良からぬ者が出てきてしまった。
もはや「頭のプロペラで人類を粛清する」などと言い出しそうな雰囲気が出ている。
慌ててフォローを入れたが
「今後の人類の活躍に期待」
などと、打ち切り漫画の文言のようなものしか私の口からは発せられなかった。

何目線で人類を見つめているのだろうか。
少なくとも相手はやべぇ奴を見る目で私を見ている。
その視線の多くは頭上のプロペラへと注がれているので、太陽光で回るしくみを説明し
場を和まそうとしたが
「これは太陽エネルギーをね、パージするんですよ」
などと、パワーチャージという単語が無駄に短縮された為、特有のそれらしき用語となってしまった。
しかも、調べたらパージに「粛清」という意味もあったので、いよいよ終末であった。

プロペラについては早々に諦め「許されない事だと思ってますよ、平和を脅かしては」と、私も真顔で平和を愛する者の一員である事を示そうとしたが
「許されない……」
まで言った瞬間、頭のプロペラが激しいモーター音を響かせながら回転し始めた。

パージが始まってしまった。
自宅の電子機器から発せられれば間違いなく狼狽える音であった。
しかも、音から察するに瞬く間に何らかの部品が回転数を上げている。
渦中の私が慌ててはパニックを誘発すると思い、平静を装い避難を促したが
「頭が爆発するかもしれないので、気をつけてください」
と、これを見たが故に頭が爆発する呪いを掛けられたかのような心情を抱かせる発言となった。

その瞬間、プロペラがバシュゥゥンッと空気圧が限界を迎えたような音をたて、頭から離脱した。
何故か後方へ飛び、部屋の奥へとその姿を消した。

発明好きの友人の試作品であるが、何て物を作りやがるとプロペラを見送っていると、背後で玄関ドアが静かに閉められる音が聞こえた。

勧誘の男性が外からそっと扉を閉めたようであった。
扉を開き外を見たが、その姿は跡形もなく消え去っていた。

私のプロペラにパージされていない事を祈るばかりである。



【追記】
Xでの文字の関係上「帽子」と表記したが、実際はヘルメットの上に布が被さっている状態である。

1人くらいは
「やーこさん、頭頂部の毛がパージされたんですか?」
などと、聞いてくる心優しい者がいるかもしれぬので、こちらにその装甲を記させて頂いた。

あの勧誘の男性が、同じアパートに住む者であったと発覚したのは「頭プロペラ離脱事件」から一ヶ月程してからの事であった。

友人によって新たに「頭プロペラ改」が発明され外で試運転したが、頭から煙が発生しプロペラは回る事はなかった。
すると、丁度あの勧誘の男性が同じアパートから出てきた。
勧誘男性は一ヶ月ほど前に自分を恐怖に陥れた不気味なプロペラ野郎が、今度は頭から煙を発生させている様を目撃した。

彼は同じアパートの上の階に頭のおかしい奴が住んでいるという恐怖をこの一ヶ月間抱えていたのだろうか。

何か用があったから外に出てきた筈であるのに、彼はそのまま部屋に戻っていった。






※実際にこの用語を使用する団体があったとしても、本編とは一切関係ありませんので、ご了承ください。
相手が言った言葉はご迷惑をおかけしないよう大分変えてあります。
会話でほぼ変更がないのは自分の発言だけです。
変更がないのも問題があると気が付いて気が重いです。


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