一升瓶の中身を水に差し替えられた事に気が付かず、うっかり飲んでしまい、この気持ちを共有するべく近所の飲み仲間のジジイに飲ませる事にした。

一升瓶と紙コップ一房をぶら下げ、ジジイを求めて歩くと、まんまと見つかった。
私の手にしている酒に目をつけたので、紙コップに注ぎ飲ませたところ、非常に難儀な表情を浮かべた後
「……水だねぇ……」
と、呟いた。

心にえも言えぬ感情を抱く者がまた一人増えた。
ジジイの提案で、休みの日にいつも飲んだくれているもう一人の飲み仲間のオヤジにも飲ませようという事になった。
まさに負の連鎖である。
世の中に争い事がなくならぬ理由がよく分かる発想であった。

歩いていると、公園のベンチでオヤジが自宅であるかのように酒を飲んでいた。
子供が遊べぬではないかと思われるかもしれぬが、この公園はほぼ遊具もなければ子供の数よりも吸い殻の数の方が多い。
小田原競輪場の中にそびえる公園レベルでオヤジしかおらぬオヤジ公園と申しても過言ではない。

既にほろ酔いのオヤジをジジイが呼び、一升瓶を差し出した。
オヤジに飲ませると、酔っている癖に酒に対する感度が高いのか
「……水だねぇ……」
と、非常に切なげに呟いた。
今まで見た中で一番哀愁の漂う表情を見せた。

酔ったオヤジも家に帰る事となり、3人で紙コップを片手に歩いていると、いつも交番にいる非番の警官に出会した。
日頃から酒に酔い面倒くさいオヤジが
「面倒くさいのが来た……」
と、呟いた。
非番の警官が
「あ!コラ!歩きながら一升瓶はダメだよ!」
と、こちらに声をかけて来た。

私よりも遥かに人生を積んでいるジジイとオヤジが「コラ」などと怒られている様は妙にシュールであった。

ジジイは警官に向かい黙って一升瓶を差し出し
「いいから飲んでみろ、何も言わずに」
と、ゴリ押し、半ば強制的に非番の警官は飲む事となった。
「……水だね」

こうして我々のゴールデンウィークは過ぎていった。
今となっては懐かしいが、非常にくだらぬ連休の過ごし方をした。

だが、この連休が私の中で今でも忘れがたいのは、このくだらぬ時間が大事だからであろう。




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