ある日から非通知で無言電話がかかってくるようになった。

恐らく暇を持て余した友人のタカシの仕業であると私は予測していた。
音声マイクが壊れたのかと思っていたが、たまに小さく「ねぇ」と囁いてくるところを見ると、やはり人工的な無言電話である。
元々、人類の訳の分からぬところを凝縮したような男であった為、気にしていなかったが、こちらもタカシに劣らず暇であったので
「分厚いぃ手の皮、苦労の証ぃ〜♪
 おやじぃーーおやぁあぁぁじいぃぃ」
と、歌の練習の時間に充てることにした。 



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私の歌の腕も磨かれてきた頃、タカシと会っている時に非通知電話がかかってきた。
しかし、タカシの手にはスマホは握られていない。訊けば
「無言電話は2回しかかけていない」
という。
しかし、現時点で通算10回は超えていた。

8回はエアタカシからの無言電話という事実が発覚した。
とりあえず出たが、動揺し
「たかすぅ?」
と、故郷を思わせる発音となった。
相手もちょっと電話しない間に随分訛ったなと思った事だろう。
タカシに通話状態のまま渡すと、少しした後
「これ、小さく「シね」て言ってね?」
と、恐ろしい事を言いながらスマホを返してきた。

そんな怨念のこもった電話だとは思わず
「おはようタカシ」などと、勝手に相手に名前を付けた挙句、訴えを無視し、全力で親父の歌を歌い続けていた事に私は恐怖した。

己の今までの奇行に狼狽え、ではコイツはどこのタカシなんだとタカシに尋ねると
「少なくともこのタカシではない」
と、タカシも何故か動揺し、タカシの一人称が「タカシ」になった。

我々の間でタカシがゲシュタルト崩壊しそうになった。
しかし、タカシの崩壊以外に特に害はないのでそのままにする事にした。
ある日、自宅で飲んでいる時に嫌な知人が来訪してきた。
その際に例の無言電話がかかってきたので、全力で
「ブリンバンバッ!!
 ブリンバンバッッ!!
 ブリンバンボッ!!」
などと、振り付け付きで歌い始めたところ、足の脛を強打し
「きぎぃいいいぃぃい!!!!!」
と、狂った様な高音の悲鳴をあげた。
甲殻類系の化け物の断末魔のような金切り声であった。

知人は急に踊り狂い苦しみ始めた私を見て、驚愕していた。
それ以来、無言電話と知人の来訪はピタリと止まった。



【追記】

因みに「+29687…」などの「+」のついている番号は国外からのものであり、大抵は詐欺電話である。
高額な通話料が発生したり、日本の大手通信会社と偽り金銭を要求されたり事があるらしい。
うっかり出ないよう、お気をつけて頂ければ幸いである。
因みに上記番号は適当に打ったものであるが、調べると大体どこの国からのものか+の後の番号でわかる。
私はトケラウ諸島から着信が来た。
気怠い昼下がりに、遠い島国に想いを巡らす事となった。

非通知電話は出ない事に越した事はないが、タカシからの電話が何故か非通知表示されてしまう為、タカシである事を懸念し出ていた。
割と長く着信するうえに、何回かかかってきたので完全にタカシだと思い込んでいた。
危機管理の甘さがお恥ずかしい限りである。



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