アルバイト先の敷地内に犬の糞がよく放置されるようになった為、注意喚起の張り紙を作ったが
「飼い主さんへ 
 糞め持って帰ってください」
と、飼い主をクソ呼ばわりする好戦的な張り紙となった。

誤字変換の悲劇である。
「を」と「め」を間違えただけでこんなにも喧嘩腰になるとは思わなかった。
バイトの木村は
「これでいきましょう」
と申していたが、店長の強い要望により修正された後、件の場所に貼られた。
しかし、その後も変わらず放置され、何か対策できぬかと出勤途中で出会った木村と考えながら歩いていたところ、まさに今放置されんとする現場に出会した。

すぐに木村が店長を呼びに行き、その間私が声をかけ、敷地に糞を置いていかれる側の気持ちを考えて欲しいと丁重に訴えたが
「置いていかれる糞の気持ちを考えた事がありますか?」

などと、糞サイドに寄り添う不気味な者と化した。

考えた事がある方がむしろ変態である。
しかも、その発言をしたと同時に店長が駆けつけてきた為、到着早々店長に地獄が訪れた。
「こんな所に置いていかれたら悲しいですよ、私たちは」
と、店員一同の気持ちを述べたが、先の発言のせいで放置された歴代の糞に異常に感情移入しているような気味の悪さが際立った。
挙句の果てには「糞、持って帰ってくださいね」が上手く発音できず
「糞も帰ってくださいね」
などと申した為、ついに直接糞に語りかけ始めたようになってしまった。

今までの発言からすれば一貫した矛盾無き発言であるが、そもそもの発言が一字一句不審の羅列で形成されている為、そのブレのなさがより不気味さに拍車をかけていた。

オヤジが震えている。
恐怖からくるものなのか、別の感情からくるものなのか、それは本人しか知りえぬオヤジだけの心の産物であった。
しかし、問題の犬の産物はいまだ回収される事なく震えるオヤジと私の間に横たわっている。

糞に語りかける衝撃的な店員の存在が邪魔をし、店長の方も本題である注意が進まぬようであった。
もはや、糞に匹敵する厄介さすら感じられている気がしないでもない。
とりあえず現状についてを店長に訊かれたので
「この方が糞をしてたので、声をかけました」
と、尾を振る犬の胸元を撫でながら答えると、店長に戦慄が走った。

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飼い主は
「すみません……でも、俺はしてない……。犬です……」
と、小さく呟き訂正した。
危うく別の罪状まで課すところであった。
その後、言葉はなかなか続かなかった。

犬は私の足元で腹を出し、くねくねとしていた。




【追記】
私も犬は大変好きであるが、木村は更にハードな犬好きである。
普段はあまり表情に起伏のない木村が惜しげもなく笑顔を見せる数少ない存在、それが犬である。
 

勤務時間的にいつも木村が放置された糞を片付けていた為に
「飼い主のせいで犬が悪者にされるような事が本当に許せない」
と、大変憤っていた。
ちなみに、こちらの飼い主さんは、その後持ち帰ってくれた。

間違っても、やがて土に還るから放置で良いなどと思わないで頂きたい。
ご自宅のプランターで惜しげもなく土に帰っていたら何か嫌だろう。

生産元が愛犬であるならば、その生産物にも愛を持って対処して頂ければ幸いである。

最後に
Xで猫ちゃんやワンちゃんを筆頭に、愛する四つ足であったり、羽の生えてる家族の写真を貼ってくれる皆様に、この場を借りてお礼申し上げる。
皆様とその大切な生き物達に幸多からんことを!