友人宅にて。
着いて早々に友人に一歳の赤子を受け渡され私に凄まじい緊張が走った。
ゴリラがケセランパサランを持つようなものである。
赤子の安全について友人とは今一度話し合いたい次第である。
私ならば決してゴリラにケセランパサランを預けたりなどしない。
皆が見ていないところで、赤子がおもむろに立ち上がった時には心底驚いた。
立つなんて聞いていない。
知っているのならば事前に一言添えておいてほしかった。
歴史的瞬間かと思い、急いで友人を呼ぼうとしたが
「オ……オォ……ォ……」
と、不気味な呻き声しか出せなかった。
赤子の初の仁王立ちの観賞者が、両親ではなく呻き声をあげる不気味な大人になってしまったかと思い、大変心臓に負荷の掛かる思いをした。
しかし、赤子は頭の収まりどころが定まらぬのか、ドラクエの戦闘画面で馴染みある動きを見せていた。
厄介な呪文でもかけてきそうな雰囲気が漂っている。
冒頭に書いた恐怖とは違う類いの恐怖を味わった。
そのまま笑いながらこちらへ直進してきた時は、思わず死を覚悟した。
夫婦で赤子が口にするのは「ママ」と「パパ」のどちらが先かと競っていたが、
長男タケルくん(5)も、密かに「たける」と赤子に教え込んでいる。
土俵に上がっているのが、君ら二人だけであるといつから錯覚していた?
思ったより競合相手が多い事をお忘れなきように。
ちなみに、私も「まんもう」と密かに教えておいた。
近所のオヤジが可愛がっている猫の名である。
つまり、「ママ」「パパ」「たける」「まんもう」が土俵に上がっている。
「まんもう」は赤子がうっかり何かの拍子に口走りそうな音の羅列なので、一番の手強い相手といえよう。
ゆめゆめ油断せぬように。
友人一家と、まんもうに幸多き事を。
子供達がすくすくと育ち、「まんもう」も長寿することを願う。
【追記】
何年か前に、友人に「何か書いてくれ」と頼まれ書いたものである。
手紙形式であったので、手を加え濁しつつ、できる限りその雰囲気を壊さぬよう載せている。
その友人に、私がXで文章を垂れ流している事がついにバレた。
当時書いたこの文章を
「これをネットの海に垂れ流すときが来た」
と、LINEではなく唐突にDMに送りつけてきた。
万が一私でなかったら、どうするつもりであったのだろうか。
急に怪文書が送られてくる不気味な事態である。
タケルくんはお兄ちゃんらしく過ごし、赤子も今やドラクエの世界から足を洗い頭を揺らさず二本の足で走り回っている。
タケルくんは
「お兄ちゃんやるのもさ、疲れるってわけよ」
などと、たまに胸中を明かす。
飲んでいる麦茶がウィスキーのように見える貫禄が漂ったので、おかわりの際にウィスキー用の丸い巨大な氷にしてやったところ、よりそれらしくなった。
たまにはハメをはずしたいらしく、私の前に現れてはお兄ちゃんの仮面を外している。
しかし、外すと上記のような小さなオヤジが出てくる。
私は一番末である為、弟や妹がいる者の気持ちは分からぬが、上の子に我慢が多かった事だけは何となくわかる。
故にタケルくんは仮面を投げ出したい時は投げ出し、存分にオヤジを露呈すれば良いと思っている。
因みに、今回追記を載せるにあたり、タケルくんにも許可を頂いた。
「やーこちゃんもさ、俺の事は気にせず好きに書けばいいのよ。俺は気にしないよ。子どもだから」
と、子どもらしからぬ言動が返ってきた。
しかし、その信頼感を大切にしたいからこそ確認は取るのである。
そして、「まんもう」はよく窓辺でひっくり返っている。
【書籍】
まんもうは、お日様の香りと ふてぶてしさを醸し出しておりますが、私は本を出しています。
○二冊目(NEW)
【電車で不思議なことによく遭遇して、みんな小刻みに震えました】
○一冊目
【猫の診察で思いがけないすれ違いの末、みんな小刻みに震えました】
もしよろしければ、覗いてみてください。
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