高校生の頃、防犯セミナーに参加したが、司会者の胡散臭い中年女性とスタッフ他二人であり、参加者も私を入れて三人しかおらず、既に嫌な予感が漂っていた。
痴漢にあった時のシミュレーションとして即興劇のようなものをやらされ、私は強制的に被害者役となった。
痴漢役は精神面を考慮され、セミナー側のスタッフが等身大の人形を操るようであった。
背後から人形の魔の手が伸び振り向くと、ドンキの人面マスクで無理やり作られた雑なオヤジ人形がスタッフに支えられ立っていた。
首は据わっていないのに目は据わっており、大変不気味であった。
明らかに様子のおかしいオヤジに「この人痴漢です」という定型文が脳内から完全消滅し
「こちらオヤジです……」
と、ただのオヤジの紹介となった。

その瞬間、オヤジ人形の頭部が地面に音を立てて落下した。
今しがた紹介したオヤジが、オヤジだったモノになってしまった。
今まで生きてきて、痴漢の頭がもげるパターンは初めてであった。
スタッフが慌てて頭を拾い上げ戻した為、この痴漢オヤジは身体構造がアンパンマン形式であることが判明した。

乗客役Aの
「大丈夫ですか?」
という、本来被害者役の私に掛けられるはずであった言葉が、オヤジ人形とスタッフにかけられた。
しかし、心配をよそに接着不備のオヤジの頭部は再び落下した。
オヤジが重症である。
私の方に頭が転がってきたので拾ったが、中が全て新聞紙であるとは知らず、触れた瞬間にオヤジの眉間がひしゃげた。
非常に悲しげな顔になった。
乗客役Bが、もうダメそうである。
涙目で震えている。

とりあえず痴漢は倒したという事でよろしいだろうか。
「もう仕方がないから、被って続けて……」
と胡散臭い中年女性が下を向き震えながらも、何とかシミュレーションを続行させようと指示を出した。
何がそんなにも彼女を駆り立てるのであろうか。
しかし、胡散臭い中年女性が次に顔を上げた瞬感、被害者がオヤジの顔になっているのを目にした。

こちらに言ったのかと思い、私が被った為に被害者もオヤジになってしまった。
ようやくシミュレーションは止まった。
我々の手元にはアンパンマン形式のオヤジ人形の思い出と、胡散臭い中年女性に配られた謎の団体のチラシだけが残った。
【追記】
どんなセミナーであったかを書いて提出しなければならないが
「痴漢のオヤジの頭部がもげた」
と、いう一文にふざけているのかと疑われた。
他二人も同じような事を書いていたので無実は証明された。
しかし、怪しげな勧誘の紙を我々に渡していったので、その点は問題になった。
【書籍】
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