尻にデキモノを抱え、私は細心の注意を払い電車に揺られていた。

既に限界状態であり、姿勢によっては僅かな振動でも爆ぜる危険な状態であった。
尻に爆発物を抱えていると言っても過言ではない。
よくデスゲームなどで首に装着されるルールに逆らえば爆破される装置が、私だけ尻に設置された心持ちであった。

すると、爆発物以外の存在感が私の尻に芽生え始めた。
恐らく人の手である。
まさか好んで私の尻を撫でさする者もいないだろうと思い、事故であろうと判定を下した瞬間、ダイレクトに鷲掴みにされた。

私の尻は爆発した。

尻の爆発圧力により、私の肘が痴漢のみぞおちなどに入った。
よって、唐突に尻や腹をおさえて疼くま不審な者が二名も車両に現れる事となった。

近くにいたサラリーマンが心配し、私に声を掛けてくれた。
私は尻を鷲掴みにされた事を必死に伝えたが
「尻が……ッ、 尻がやられたァ……ッ!!」
と、己の尻の爆破が全てを上回り、上手く伝える事ができなかった。

コックピットがやられたばりの剣幕であった。
私の視界の端で痴漢が腹を押さえ徐々に逃げようとしている。
私は爆発した片尻を押さえながら追った。
尻や腹をおさえる中腰の二人による、ダンゴムシ程のスピードで繰り広げられる迫力のない逃走劇が車両にお届けされた。

事情の分からぬ者から見れば、確実に関わり合いたくない光景であった。
乗客達は我々に道をあけた。
どんなに逃げようとも快速急行なのでまだ時間は十分にあった。
地の底までも追いかけ、必ずや尻爆破犯を捕らえると私は固く決意した。

私は背後から痴漢に襲いかかり、捕獲に成功した。
後ろを見ると、先程のサラリーマンが心配してついてきてくれていたので協力を要請した。
「私が抑えている間に早く……!」
「早くトドメを刺せ」と要求しているようになった。

セリフ的に私を貫通し敵が倒されるパターンである。
サラリーマンの手に光る、攻撃力の高そうな傘の存在が気にかかった。

尻の仇を討つように痴漢を床に潰していると、サラリーマンは私の意思を汲み取り、手を貸してくれた。
しかし、サラリーマンも混乱しているのか
「応援してください!」
と、言いながら痴漢を押さえていた。

応援は得られなかったが、近くにいたガタイの良い学生達が囲み、痴漢は退路を失った。
痴漢は警官に無事引き渡された。
尻は爆発を終え、段々と楽になってきた。
サラリーマン達は駅員に引き渡した時点で去り、私だけが警察署へ行く事となった。

私は警察署で朝を迎えた。
警察車両を降りると、ひんやりとした朝の空気が私を包んだ。
爆発を乗り越えた朝は、いつもより空気が澄んでいるように感じられた。
秋空の下、私は大きく深呼吸し、新しい一日の始まりに一歩踏み出した。


【追記】
私の尻の諸事情により、その日遊ぶ約束が流される事となった友人が「尻の体調は大丈夫か」と、連絡をくれた。

「尻が電車内で爆発して警察署にいる」
と簡潔に伝えた為に、凄まじい威力で尻が爆発したようになった。
おそらく爆発の瞬間に尻は光を放っている。

そして、関せず過ごす事もできたなか、心配し協力してくれたサラリーマンと学生の方々には、心より感謝申し上げる。
そして、人知れず通報してくれた方、あなたのおかげでスムーズに引き渡す事ができた。

本当に有難うございました。
人の温かさを感じた。

ちなみに尻のデキモノは、このブログでも度々登場する「粉瘤(ふんりゅう)」という。
お察しの通り、再発率が高い。

中に袋状のものがある事が原因であり、繰り返す場合医師に相談すると取って貰えるらしい。

しかし、私は恐怖でまだ相談できていない。



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