「世の中には仕方がない事もあります。
しかし、それが許容できるかと言えば、それはまた別の話です」

そう言うと、友人は髭を撫でながら私を見つめ、次に目の前のコーヒーカップへと視線を移した。

「手頃なコップがないからといって、コーヒーカップにコーラを入れるのはやめなさい」
友人はそう言った後、部屋に侵入し遠巻きに見つめる猫を見た。


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私は言い訳を述べた。
友人は猫から目を離し、再び私の目を見据え静かに口を開いた。

「事前に“コーラです”と伝えておけば良いというものではないのです。
しかも、あなたはまんまと視覚につられて
“コーラーです”と、完全にコーヒーの振る舞いで発音していたではないですか」
私は追加の猫を部屋に入れた。


友人は追加の猫を見つめた後、私に向き直った。
「事実が分かっていても、人間は視覚から得た情報に脳が騙されるものです。
現にコーラと分かっていても、僕は何だか妙な心持ちです」
私は友人のカップに氷を入れた。

「氷を入れたからといって、コーラ感が増す訳ではないというのがよく分かりました。
むしろ、“アイスコーヒーをホット用のコーヒーカップに入れたようなコーラ”という、ミスリードが増えただけです。あなたは前も……」 
追加の猫が私の膝の上に乗り、友人と向き合った。

「……猫を味方につけるのは卑怯ですよ」

よく晴れた昼下がり、友人の静かにコーラを啜る音が耳に心地よい。
猫だけは真剣な面持ちで友人の話に耳を傾けていた


【追記】
眠くなってきた。
最初に侵入した猫が目を細めてこちらを見ている。
友人は猫を触りたそうである。
先程から私の膝上の猫と遠巻きに見つめる猫を、ちらりちらりと見ている。

私は自分のコーヒーカップのコーラを啜った。
眠気は高まる一方である。
何か歯むものはないかと探したらところ、小分けの大豆が出てきた。
「コメダ珈琲店式ですね……」
友人はポツリと呟いた。
その後、何故か猫達は私の隣に並んで座り、企業面接スタイルが貫かれた。


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友人の口元が緩んでいる。
しかし、このラインナップでは間違いなく私は採用されない。

因みに、友人は本当にいつもこのような丁寧な口調である。
過去に一度だけ
「クソが!!」
と、言われた事があるが、その一度きりである。


【書籍】
友人の集中力は底をつきましたが、愛猫達や近所の猫達との生活を綴った猫エッセイが出ました!!

新作 〜 猫(?)エッセイ〜
「尻でカスタネットを奏でたら視線が刺さり震えたが今日も猫は愛おしい」

【↑Amazon限定特典本】
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(※しおりのみ、書店に置かれている本でも初回版ならば付いてきます!!)


【こちらは一冊目と二冊目です!】

○二冊目
【電車で不思議なことによく遭遇して、みんな小刻みに震えました】

電車で不思議なことによく遭遇して、みんな小刻みに震えました
電車で不思議なことによく遭遇して、みんな小刻みに震えました
やーこ
KADOKAWA
2024-04-24

○一冊目
猫の診察で思いがけないすれ違いの末、みんな小刻みに震えました】




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