水面に揺れる夕陽を持ち帰ろうと、スマホのシャッターを押したところ、黄昏の空の下に頭に鳩を乗せ佇む異色を放つオヤジが映り込んでいた。

幻かと思い肉眼で確認したところ、オヤジと鳩と目が合った。

なにゆえ鳩と共に直立不動を貫いているのかは不明であるが、勝手に撮ってしまったと思い謝罪すると
「……いいんですよ……」
と、返事が返ってきた。
澄んだ瞳をしていた。

風がススキを揺らし、煌めいている。
「……あの……」
と、オヤジが小さく声を発した。
「……申し訳ないのですが、頭の鳩をとってく れますか……?」
人生で初めての申し出をされた。


IMG_1937


趣味で乗せているのかと思った。

聞けば突然上空から現れ、頭上に舞い降りたしい。
しかし、鳥全般に恐怖を感じるタイプのオヤジであった為、途方に暮れていたという。

退いて頂こうとしたが、鳩の猛攻にあった。
オヤジの頭の何がそんなにも鳩を惹きつけるのだろうか。
オヤジの毛と鳩の羽毛が散っていった。

試行錯誤の末にようやくオヤジの頭に固執する鳩を引き離した。
しかし、オヤジの毛と自由と引き換えに私の頭に鳩がとまった。
次の身代わりが来るまで取り憑かれ続けるタイプの呪いのような展開となった。

とりあえず交番へ向かう他なかった。
交番に着くと警官はいなかった。
代わりに酔っ払ったジジイがいた。

「なんやぁ!!」
と、何故か交番の扉を開いた瞬間から喧嘩越しであった。しかし、私の頭の鳩を見ると
「鳩か………」
と我々全体を鳩として認識し、ジジイの勢いは失速した。
鳩は平和の象徴の効力を発揮した。

頭が羽だらけのオヤジが交番の内線で連絡を取り、警官の到着を待っていると、新たに見知らぬサラリーマンが扉を開けた。
私の頭の鳩を見ると、そっと扉を閉めた。

再度扉を開けたが、彼の頭に鳩が無かった為か、酔っ払いジジイが絡み揉め始めた。

「なんだとジジイ!」
「なんやお前!表に出ろ!」
「ほぉほぉ ほっほー」

鳩も参入し始めた。

IMG_1938

表に出るべきは恐らく鳩と私である。
鳩の介入により次第に口論は減り、やがて沈黙が訪れた。
鳩だけが独特のリズムで鳴いている。
警官が到着し扉を開いが、警官も扉を閉めた。

警官にこちらの順番が優先されそうになったので、鳩のブレスの合間に
「お爺さんが……」
「ほぉほぉ」
「先……」
「ほっほー」
と、伝えると「いいから、先いけよ……」とジジイに順番を譲られた。

警官に事の流れを伝えている途中、鳩が
「ぼぉあっ ぼぉあっ」
と上下し、先程とは違う鳴き方をし始めた。
「求愛の鳴き方や……」
と、ジジイが呟いた。
サラリーマンは自身の口元を手で押さえた。


【追記】
頭が羽だらけのオヤジは鳩の恐怖からか交番の角に立ち、己の存在を極力消していた。
しかし、段ボールに鳩を移す際に鳩は飛び立ち、再びオヤジの頭にとまった。

オヤジは直立不動となり、無となった。
その立ち姿は、オヤジと最初に出会った頃と同じ佇まいであった。
このスタイルこそが、オヤジが鳩と相対する際の姿勢である事が判明した。


【書籍】
オヤジの頭に鳩も出ましたが、愛猫達や近所の猫達との生活を綴った猫エッセイも出ました!!

新作 〜 猫(?)エッセイ〜
「尻でカスタネットを奏でたら視線が刺さり震えたが今日も猫は愛おしい」

【↑Amazon限定特典本】
  •初回版の場合はしおり
  •壁紙2種類(2025年 3月まで)
(※しおりのみ、書店に置かれている本でも初回版ならば付いてきます!!)


【こちらは一冊目と二冊目です!】

○二冊目
【電車で不思議なことによく遭遇して、みんな小刻みに震えました】

電車で不思議なことによく遭遇して、みんな小刻みに震えました
電車で不思議なことによく遭遇して、みんな小刻みに震えました
やーこ
KADOKAWA
2024-04-24

○一冊目
猫の診察で思いがけないすれ違いの末、みんな小刻みに震えました】




こちらで各ネット書店でもお求めいただけます!