胃カメラの検査を受ける日であったのに、私は寝癖により頭の形が尻に酷似していた。
その日、淡々と責務をこなすクールな女医は、突如診察室に現れた尻の実写化を前に、言葉を失った。
寝坊により頭を直す時間がなかったのだ。
しかも入室の際に目測を誤り、尻の実写化は扉に挟まり、こじ開けながら入室してきた。
エイリアン映画の一幕のようであった。
その際「失礼します」がドアに押し潰され
「しっつ…ぶるぅぁあ」
と、いうトゲピーとセルのキメラのような謎の鳴き声まで放たれた。
この時点で既に私は「もう家に帰りたい」と思っていたが、恐らく女医も同じように思っていたに違いない。
女医もまさか自分の患者に尻の擬人化が紛れ込んでいるなどと思わなかった事だろう。
女医の説明の所々に、何かに耐えるように不自然な沈黙が訪れた。
私の存在は診察妨害と化した。
検査室の待機場所にて、説明用紙には「鼻からなので苦しくない」と書かれ、院内の胃カメラのポスターにはハーフ美女が鼻から胃カメラを伸ばし余裕の表情を浮かべている。
そして、それを見つめる不審な尻人間がいる。
「なんか……あの、すみません。座って待っててください……」
と、頭の尻が視覚的に何らかの妨げとなったのか、半笑いの看護師に座らせられた。
大人しく座っていると、私の前方を横切るオヤジが私の尻頭に目を奪われ見つめたまま歩みを進めた為、壁の柱に激突した。
座っていても割と迷惑であった。
胃カメラ室にて、鼻に噴射された麻酔薬が苦すぎて涙目で悶絶する事となった。
半泣きで苦しむ中、鼻から入れらた管が喉に差し掛かり飲み飲んだ瞬間
「これ以後は唾は飲み込まないでくださいね」
と、衝撃の一言を放たれた。
苦しくないという文言
ポスターのハーフ美女
院内の視覚に訴える全ての情報が私を騙してくる。
しかし、冷静に考えれば管が鼻から入っている時点で余裕の表情を保てる訳もなく、よくよく考えれば私もハーフ美女ではなかった。
私は頭に尻が生えているタイプの産まれたての朝青龍のような面持ちで耐えた。
あまりに不憫であったのか、新人らしき看護師に
「モニターに胃が映ってますので良かったら…」
と、「気晴らしに胃でも見ろよ」と飛行機内の映画鑑賞のノリで胃を勧められた。
しかし、モニターは横たわる私の目よりも上に位置していた為、視線を向けた結果、私は白目を剥き、口から唾液を垂れ流すとんでもない絵面となった。
尻の実写化が重篤な瀕死である。
気は晴れなかった。
恐らくニコチャン大王がNASAに捕獲されれば似たような絵面を辿る。
勧めた看護師は泣きそうな顔をしていた。
胃カメラ後、再度診察室に呼ばれるまでの待ち時間に、私はトイレへと向かった。
ふと鏡を見ると、私の頭の尻が巨大化していた。
しかも、何故か右目が二重になっていた。
女医は診察室に再び現れた巨大化した頭の尻を目撃し
「なんで!?」
と悲鳴にも似た声を発した後、咳き込み喉にダメージを受けた。
明らかに迷惑な患者であった。
【追記】
タイトルを「私の頭の上の尻ヘア」にしようかとも思ったが「私の頭の中の消しゴム」という感動的な映画を重んじて控えた。
こちらに映画ほどの影響力は無いとはいえ、少なからず感動作品妨害である。
院内にて、その日は珍しい事に同姓同名がいたので、普段より念入りに名前の確認をされた。
しかし、恐らく私は「尻の方」と覚えられている。
前日に髪を切った事が原因である。
あんなに髪が上に上がるとは思わなかった。
更に検査後に頭の尻が巨大化するとも思わなかった。
せめて大腸内視鏡ならば検査に合わせたファッションだと思われたかもしれないが、胃カメラであった為、尻の実写化のムダ撃ちである。
以上の経験から今年は麻酔の胃カメラにしたが、大変快適であった。
快適すぎて、私が読んでは腹を抱え死に際の虫と化す漫画の作者に
「胃カメラの新時代は麻酔です」
「麻酔の意識なしの鼻」
などと怪文書を送った。
それくらい快適であった。
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