店外掃除中、クレームのオヤジが私の目の前で転んだ。
オヤジに八つ当たりされる未来が見えた。
私は優しさを贈る事で八つ当たりを回避しようと、オヤジを助け起こすべく
「どうぞ」
と、声をかけ手を差し伸べた。
その瞬間、上空から鳥の糞が私の掌に落下した。
私の慈悲の心が鳥の計らいにより、糞を押し付ける悪質な追い討ちと化した。
「どうぞ」の対象が一瞬にして私の手から糞へと移行され、オヤジが弱った隙にすかさず糞をお見舞いするスタイルとなった。
奇跡的な事態に思わずオヤジに語りかけたが
「これ、どう思います?」
と、鳥の糞の感想を求める狂人と化した。
どうもクソも無い、糞である。
オヤジがクレームも痛みも忘れ引いている。
私は乾燥する前に早急に拭き取りたいと、手を差し出したまま声を上げたが
「これ、まだ新鮮なんですよ」
と、謎に鮮度をアピールする結果となった。
「これ、どう思います?」
「これ、まだ新鮮なんですよ」
という言葉順のせいで
「これ、一口いかがですか?」
と続きそうな、嫌な予感しかしない。
オヤジはポケットティッシュを丸ごと手渡し、私が拭き取るのを見届けた後に
「……じゃあ……」
と、足早に去っていった。
親切なオヤジだと思い、ふとポケットティッシュを見ると、何らかの錠剤が半シートほど入り込んでいた。
オヤジは安堵した。
かの糞を押し付けられるかもしれぬ緊張感から、ようやく解放された。
先の怒りなど消え失せ、霧が晴れたかのような開放感で歩みを進めていた。
しかし、背後から響くけたたましい足音が、やがてオヤジの鼓膜を揺らした。
オヤジは振り返った。
視線の先には先の糞の店員が使用済みのティッシュを掲げ
「何かお忘れではあぁ!」
などと、叫びながら迫ってくる。
オヤジの恐怖が再び始まった。
拭くものまで提供したというのに、尚も糞を渡さねば気が済まぬというのだろうか。

私が近寄ると、オヤジは何故か観念したかのように絶望の表情を浮かべ歩みを止めた。
オヤジは地獄の裁判で生前の数少ない己の善行に縋るように
「さっき……ティッシュあげたじゃないですか……」
と、蚊の鳴くような声を絞り出した。
私は走った事により乱れた呼吸を整えつつオヤジの手に
「お く す り」
と言い、使用済みのティッシュを乗せた。
薬と間違え丸めたティッシュの方を渡してしまったのだ。
「イヤァ……」
と、オヤジが小さく声を漏らした。
その声は風に攫われ、一羽の燕が空に夏の幕開けをするかのように横切っていった。
【追記】
オヤジは私の掃除にもクレームを入れようとしていたが、その前にレジの方にもクレームを入れていた。
レジの店員の木村の溜飲が下がるよう一連の話をしたところ、ツボに触れたのか木村は震えてレジの下から出てこなくなった。
あまりに出てこないので、こちらも身を乗り出し声をかけようとすると、店長がゴキブリが出たと勘違いしてゴキジェットを持って現れた。
構えてレジへ入るとゴキではなく人間が現れた為、本気で驚いていた。

【書籍】
三冊書籍が出てます。
新作の猫エッセイにはクレームを猫で何とかする話もあります。
◯最新作 変な猫エッセイ
「尻でカスタネットを奏でたら視線が刺さり震えたが今日も猫は愛おしい」
【↑Amazon限定特典本】 •初回版の場合はしおり ※書店に置かれている本でも、初回版ならば付いてきます!!
◯一冊目 変なエッセイ
【猫の診察で思いがけないすれ違いの末、みんな小刻みに震えました】
猫の病院で起きたすれ違い、
カツアゲにあった話など、日常の不審者詰め合わせ。
愛猫の話もあり。
◯二冊目 変人達のレクイエム
【電車で不思議なことによく遭遇して、みんな小刻みに震えました】
変質者と変質者のマリアージュ
勿論電車の中での話以外もあります。
愛猫の話もあり。
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