【友人の子供が家に来て後悔した話】



暇なので自宅でティンカーベルになっていると、友人から中学生の息子と幼稚園児の娘を連れて我が家に寄るという知らせが入った。

着替えるのが面倒な事と、ディズニーが好きと言っていたのでこのままで良いかと思い鏡に目を向けたところ、そこにはティンカーベルの姿はなく、足の逞しい土着のゴブリンが映っていた。

小物で誤魔化せぬだろうかと、庭先で妖精らしいステッキ的な物はないかと探していたところ、友人が早めに家の前に着き、ぐずる娘に
「そんな我儘言うと“こわいこわい”が来るよ」
などと嗜めていた。
教育の場の邪魔をせぬよう、そっと家に戻ろうとしたが、突然視界に入ってきた大きめのアゲハ蝶の幼体に威嚇され思わず立ち上がってしまった。

友人と子供達の前に、突如茂みの中から真顔のゴブリンが現れた。

“こわいこわい”が出てきてしまった。
苦肉の策として魔法の杖的なイメージで伐採した枝を手に取った。
より屈強さが強調され物騒な雰囲気が漂った。
枝が太すぎたのだ。
明らかに魔法をかけるタイプのステッキではなく、血飛沫がかかるタイプの棍棒であった。

丁度友人達の背後を通った近所のオヤジも
「うわっ……」
と、声を漏らし立ち止まった。
数秒後、背後のオヤジは
「なんだ、ここの家か……」
と、言い去って行った。
我が家の認識が心配である。



中学生がもうダメそうである。
何故母の友人の家に来て死にそうになっているのだろうか。
友人も咳き込み親子共々危機的状況である。

全ては早急な対応が重要である。
化け物として園児のトラウマに刻まれる前に「ティンカーベル」と名乗り、記憶をすり替える作戦に出る事にした。
しかし、動揺から音声が乱れ
「ディンガルゴンです」
と、非常に見た目にそぐわしい名を発した。

枯れた谷にでも生息してそうな風貌と名になってしまった。
耐えていた友人と中学生は限界を迎え、二人はディンガルゴンの谷に落ちた。

今更ティンカーベルなどと名乗ったところで、もはやディンガルゴンの存在の前では手遅れである。
私の中でティンカーベルは深い眠りについた。

友人とその息子はある意味泣いていたが、園児が泣き出さなかった事は幸いである。
その後は、家に入って頂きディンガルゴンはアイスでパフェを作った。
終始私はディンガルゴンであったが、ディンガルゴンが自分の兄と仲が良い事に安心したのか、園児の中で「不気味な化け物」から「子供に優しい不気味な化け物」へと昇格した。

中学生がディンガルゴンの棍棒を欲しがったので差し上げた。
後に友人宅にて、父親と息子の間に
「このゴツい棒は何?」
「ディンガルゴンの棍棒」
「何か討伐したの……?」
というファンタジックな会話が生じたと後に友人は語った。


【追記】
忘れられた谷があった。
かつては緑豊かで美しい川の流れる妖精の谷であったが、地は枯れ水は消え、羽の強い妖精たちは鼠の王が率いる王国へと飛び立っていった。

遠くまで飛べぬ妖精達はその地の環境に適応し、その姿形を変えていった。
飛ばぬ羽は抜け、脚が発達し、僅かな栄養で生きられるよう体に脂肪を蓄えた。
羽がない為に妖精の粉は勿論の事、魔力も退化し、主に大木や石を武器として使用するようになった。

人々はそれを“ディンガルゴン(枯れた谷の番人)”と呼んだ。

妖精の名残りから子供には危害を加える事はないが、成人が不必要に近づけば攻撃をしてくる為、旅人は子供を模した人形を持ち歩くという。

〜妖精物語  ディンガルゴンの起源の章 1.進化と退化〜


※再掲載です!
新鮮な気持ちで読んでくれた人も嬉しい!
なんとなく見覚えあると思った人、凄い!


【書籍】
ディンガルゴンは、本を三冊出してます。

◯最新作 変な猫エッセイ
「尻でカスタネットを奏でたら視線が刺さり震えたが今日も猫は愛おしい」
【↑Amazon限定特典本】 •初回版の場合はしおり ※書店に置かれている本でも、初回版ならば付いてきます!!


◯一冊目 変なエッセイ
【猫の診察で思いがけないすれ違いの末、みんな小刻みに震えました】

猫の病院で起きたすれ違い、
カツアゲにあった話など、日常の不審者詰め合わせ。
愛猫の話もあり。


◯二冊目 変人達のレクイエム
【電車で不思議なことによく遭遇して、みんな小刻みに震えました】

変質者と変質者のマリアージュ
勿論電車の中での話以外もあります。
愛猫の話もあり。


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