子供の頃、外で犬と遊んでいたところ、祖母が手作りしてくれた手提げ袋が消えている事に気が付いた。
交番へ行くと、新人らしき若い警官と貫禄のあるベテラン警官が対応してくれた。

「祖母の手作りで、白い生地に花の刺繍が入っており、表面には糸で編まれた立体的な花も散りばめられている」という旨の特徴を述べると、書類を書いていた新人の警官が袋を褒めながら質問してきた。

「可愛い袋だね、中にはどんな物が入っていましたか?」

「犬のクソです」

時が止まった。



新人警官の持つペンが震えている。
「何故そんな可愛い袋に……」
ベテラン警官から純粋な疑問がこぼれた。

「おばあちゃんのクソ袋なんです」
祖母が作った「犬の散歩用の袋」と言いたかった。

「君のおばあちゃんが、作った、わんちゃん用の袋ね」
ベテラン警官の高性能な翻訳のおかげで事なきを得た。
危うく不穏な袋を探し彷徨う不気味な小学生に成り下がるところであった。

しかし、ベテラン警官の翻訳をもってしても新人警官は涙目で震える口元に力を入れ耐え忍んでいた。
それ故に言葉を発する事ができなくなっていた為、ベテラン警官が質問を引き継ぎ
「入っていたのは、それで全部かな?」
と、訊ねた。


「あと、お爺ちゃんの写真が入っています」
入っている組み合わせが最悪であった。

農業などでよくある生産者の顔が見えるスタイルの誤解が生じる。
拾った際に中身を見た者は視覚情報の紐付けに嫌な予感が過ぎる事だろう。
何故こんなものが入っていたのか、私にも不明である。

新人警官はもうダメそうあった。

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【追記】

クソ袋は、散歩中で犬がトイレをした後も気分朗らかでいられるようにという、祖母の愛情が形になったものである。
しかし、祖母も大雑把な性格の為、なんらかの拍子に祖父の写真が混入し、私はそのまま手さげ袋を受け取り愛犬の散歩に出かけてしまった。
犬の糞用のビニール袋を取り出した際に、祖父の顔が出てきて一瞬肝が冷却された。

しかも、何用の写真だか分からぬが
「吉田秀蔵」
と、ご丁寧に名前まで記載されていた。
拾って中身を見た者は、なんの糞であるのかと恐怖に慄いたことだろう。
秀蔵の糞ではない。
犬の糞である。

ちなみに、手さげは近所の奥さんが落ちているのを発見し
「あら、やーこさんのクソ袋だわ」
と、家に届けてくれた。

万が一交番に届いていれば、警官達が阿鼻叫喚したことだろう。
近所の奥さんは私だけではなく、あの交番の警官達をも救った。


【書籍】
ひでぇ話で申し訳のない思いである。
口直しに猫のエッセイでも読んで落ち着いてほしい。
尚、猫のエッセイにも不審者は出てくる。

◯最新作 愛猫や近所の不審者と不穏な猫達のエッセイ
「尻でカスタネットを奏でたら視線が刺さり震えたが今日も猫は愛おしい」
•猫に点穴を突かれて病院へ
•店員を襲うあかなめ
•猫と尻カスタネット
などの話が詰まってます。
【↑Amazon限定特典本】 •初回版の場合はしおり ※書店に置かれている本でも、初回版ならば付いてきます!!


◯一冊目 変なエッセイ
【猫の診察で思いがけないすれ違いの末、みんな小刻みに震えました】

猫の病院で起きたすれ違い、
カツアゲにあった話など、日常の不審者詰め合わせ。
愛猫の話もあり。


◯二冊目 変人達のレクイエム
【電車で不思議なことによく遭遇して、みんな小刻みに震えました】

変質者と変質者のマリアージュ
勿論電車の中での話以外もあります。
愛猫の話もあり。


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