気がついたら怪しいセミナーに参加していた。

始まるまで少々心細かったのでイヤホンを装着し手提げの中でYouTubeを隠し見ていた。
しかし電波が悪く私の心の拠り所は止まった。

セミナーが開始され、机の上に謎の石のようなものが一人一つずつ配られた。
「これは波動の石です。
石と対話するつもりで耳を傾ければ、波動の音が聴こえます。人によって聴こえ方は違いますが、皆さんはどのように聴こえますか?」
と言われ、皆は集中して耳に石を当てた。
私も、皆にならい石に耳を傾けた瞬間

「お尻を出した子、一等賞」

とんでもない発言が爆音で響いた。
私の波動の石の様子がおかしい。
隣にいた大学生は波動の石を落とした。

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アニメ「日本昔ばなし」のエンディング曲であった。
私の手提げの中のYouTubeが、最悪のタイミングでやる気を取り戻した。

「イイナ、イイナ
ニンゲン テ イイナ」

これが波動の石の音ならば、恐怖である。
人体が乗っ取られそうな雰囲気が漂った。
私は手提げに手を入れ、何食わぬ顔でタブレットを連打し停止させた。

会場は静まり返った。
恐らくほとんどの者が波動の音ではなく、
尻の一等賞についてしか聴こえていない。
誰もが波動の音について口をつぐむ中、一人の参加者が手を上げた。
「石から、小さく滝のような音がしました…」
私の中で、体験者に紛れ込んだこの会の者が浮き彫りになった。



司会者は、私の波動の石のバグについては無かった事にし、進行に勤めた。
「では、宇宙を意識して、エネルギーを送ってみてください。
音が少し聴き取りやすくなるはずです」
と、皆にも石に手をかざすよう促した。

ーー私も手をかざし集中した。

「楽天モバアアアアァァァイッ!!!!」

ーー私の波動の石が咆哮した。

動画が広告に入ったのだ。
私はYouTubeのシステムを恨んだ。
このままだと、日本のスマホ代について波動の石が文句を言い始めるので、私は再び手提げに手を入れ必死にタップした。

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司会者の顔が引き攣っている。
隣の大学生は石を両手で握るようにし、下を向き震えていた。
その姿は、祈りに似ていた。

やはり私の波動の石の狂いっぷりは無視され司会者は
「何が聴こえましたか?」
と、最前列にいた無害そうなジジイに問いかけた。
ジジイは
「耳が悪くて、さっきから何て言ってるのか分からん」
と、申した。

大学生はジジイにトドメを刺され、その後、顔を上げる事はなかった。


【追記】
バグッたジジイと狂った波動の石という最悪な組み合わせが、このセミナーに揃ってしまった。
数々の障害を経て、おおよそのセミナーの内容は終わり、歓談の時間が設けられた。

司会が
「用事のある方は、本日はここまでで大丈夫ですよ」
と、言いながら私を見た。
しかし、特に用事もなかったのでしばらく居た。
ジジイも意味もなく居た。
大半の者は帰り、残った者はサクラ疑惑の者を除き、私と耳の遠いジジイだけであった。

一番いらないのが残ったなと思った事だろう。


(※こちら再掲載であり、前に掲載したもののタイトルを変え、更に少し手を加えて載せたものである。)

【書籍】
波動の石の音は聞こえませんでしたが、愛猫達や近所の猫、不審者の本が出ております。

◯最新作 変な猫エッセイ
「尻でカスタネットを奏でたら視線が刺さり震えたが今日も猫は愛おしい」
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◯一冊目 変なエッセイ
【猫の診察で思いがけないすれ違いの末、みんな小刻みに震えました】

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